IbuprofenとかNaproxenとか

Chemistry

IbuprofenやNaproxenはアメリカではどの薬局の棚にも置かれている、一般的な頭痛薬、鎮痛剤です。商品名として、それぞれAdvilやAleveとして売られており、そちらの名前の方が聞いたことがあるかもしれません。Over the counter (OTC) drugに含まれており、医師の処方箋なしで薬局で気軽に手に入る薬です。日本でも、市販の風邪薬の主成分になっています。私の風邪は喉からくることが多く、銀のベンザブロックによくお世話になっていたのですが、Ibuprofenはその主成分でもあります。ものすごく身近なお薬なのですが、一体どういう化合物なのでしょう?簡単にまとめてみました。

IbuprofenとNaproxenの構造式

NSAID

IbuprofenもNaproxenもNSAIDの一種です。NSAIDとは、nonsteroidal anti-inflammatory drugの略で、その名の通り、steroid(ステロイド)ではない炎症抑制作用のある薬の総称です。ステロイドにも炎症抑制作用があるのですが、1950年代に大量に処方され、多くの副作用を引き起こしてしまった経緯があり、その悪印象のあるステロイドと区別するために付けられた名前のようです(Origins and impact of the term ‘NSAID’)。

NSAIDはCOX(cyclooxygenase)と呼ばれる酵素を阻害して、血管拡張作用のあるprostaglandinという化合物の生成を抑制することで、炎症を抑える効果が出るようです。COXやprostaglandinは必ずしも悪者ではなく、血小板の凝固を防いで、血管を拡張させたりするのは生きていく上で必要な生体機能です。阻害しすぎることで生じる副作用としては、腎臓病や心臓発作のリスクが上昇したりすることなどが挙げられています。薬は用法、用量を守って使うと、体の不調を直してくれる良いものですが、過剰に摂取すると毒になる諸刃の剣です。

Ibuprofen

Ibuprofenは1950年代に、Boots Pure Drug Company Ltdに勤めていた薬理学者のStewart Adamsと化学者のJohn Nicholsonによって開発されました。1899年に発売されて以来、抗炎症剤として多くの人に使われていたAspirinという薬の類自体を中心に、600ほどの化合物をスクリーニングした中から見つけられたようです。簡単な開発の歴史はこちらのリンクを参考にしてください。始めは関節リウマチの治療薬として1969年にUKで、1974年にUSで承認されて以来、広く浸透していき、1983年にUKで、1984年にUSでそれぞれ、NSAIDの中で初めてOTC薬として承認されました。(Wikipedia, Drugbank)

構造式を見てわかる通り、不斉中心が一箇所あり、薬はラセミ体として売られています。どうやら、S体の方が活性があるようなのですが、alpha-methylacyl-CoA racemaseという酵素によって、体内でR体がS体に変換されているようです(Metabolic inversion of (R)-ibuprofen. Epimerization and hydrolysis of ibuprofenyl-coenzyme A.)。

Naproxen

Naproxenは1960年代にSyntexという北カリフォルニアにあった会社でリウマチ薬として開発され(J. Med. Chem. 1970, 13, 203)、1976年にFDAに承認され、1994年にOTCとして承認されました(Wikipedia, DrugBank)。ちなみにSyntexは1994年にRocheに買収されており、Naproxenの特許が切れてしまったことが一因のようです。(New York Times)

Naproxenはfree acid(図に示したような酸の状態)とナトリウム塩の2種類売られているようで、体内に吸収されてしまえば同じ効果を示すのですが、吸収される速度がそれぞれ異なり、ナトリウム塩の方が少し速いようです。Ibuprofen, NaproxenそれぞれのElimination half life(体内に投入された薬の半分の量が体内から排出される時間)は2-4時間12−17時間となっており、Naproxenの方が代謝が遅く、体内により長くとどまっているようです。速い効果を求めている場合はIbuprofen、慢性的な症状にはNaproxenがいいと言われています。(Drugs.comより)

以上、IbuprofenとNaproxenについて、簡単にまとめてみました。個人的にも頭痛薬にはたまにお世話になっており、いつもその効き具合に驚いています。すごく単純な構造式の化合物で、こんなにも素早くいい効果を示せるって、やっぱり低分子化合物っていいですね。個人的には、こんなに単純な化合物を薬にできた60年ほど前の化学者が羨ましいです笑

私は医者ではないので、あくまでも参考程度に読んでください。薬は必ず用量用法を守ってご使用ください。

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