大麻のかがく

Chemistry

最近、有名人の逮捕でニュースを騒がせている大麻ですが、一体なんなのか?化学者のくせに、日本での否定的な見方が身についてしまったせいか、今まで目を背けていたテーマだったのですが、せっかくなので、調べてみました。

そもそも大麻って?

大麻とは、麻という植物の花や葉を乾燥させたり、樹脂化、液体化させてものをさすようです。別称として、マリファナ(marihuana)というのもよく聞くのですが、これはスペイン語で、主に乾燥大麻を指すようです。英語では総称してcannabisとも言われています。Weedという表現もよく聞きます。(草っていう意味ですね。)国によって、合法であったり、違法であったりと、扱いが異なっていて、嗜好品や医薬品として使われています。

日本にいた時は、大麻は「ダメ、ゼッタイ。」で、興味を持つのも調べるのもダメだと思っていたほど、敬遠していたのですが、アメリカに来て、至る所で匂いを嗅いだり、実物を見たりする機会が増えて、少し抵抗感は少なくなりました。欧米では、大麻はアルコールやタバコよりも安全なものであるという見方が広まっているようです。

大麻って何でできてるの?

大麻は植物を乾燥させたりしてできたものなので、いろんな成分が混ざっています。麻の産地や栽培方法、大麻の製造方法で、成分の割合が変わってくるようです。大麻の有効成分を総称してcannabinoidと言われていて、100種類以上の化合物が特定されています。こちらのWikipediaページに主な成分がまとめられています。Cannabinoidの中でも大麻の主要な成分として知られているTHC(Tetrahydrocannabinol)とCBD(Cannabidiol)について少し詳しく説明します。

THC(左)とCBD(右)の構造式

THC及びCBDとその類似化合物に関連する化学合成のまとめはこちらを参照。Friedel-Crafts反応をうまく利用した短い合成ルートが開発されています。実は、THCはDronabinol(Marinol)という薬としてアメリカでは市販されており、食欲促進や制吐作用、睡眠時無呼吸症候群を和らげる効果などがあります。HIV/AIDSによる食欲不振や化学療法に引き起こされる吐き気を改善する薬としてFDAに承認されています。(参照:Wikipedia

イギリスの製薬会社、GW Pharmaceuticalsで開発されたNabiximols (Sativex)という薬はTHCとCBDの混合物で、多発性硬化症(multiple sclerosis)の治療薬として、英国、スペイン、ドイツ、カナダなどで承認されています。アメリカでは大塚製薬がGW Pharmaceuticalsと提携して、現在(2020年)、癌の痛み軽減剤として、臨床試験を行っています。痛み止めとしての有効性は示されていますが、目まいや眠気といった副作用も報告されています。(参照:Wikipedia

THCは水溶性は低いですが、その分、細胞膜の浸透性が高く、Blood Brain Bareerを通過して、中枢神経系にあるcannibanoid受容体に結合します。受容体の作用を阻害することで、cAMPの濃度を低下させて、炎症を抑えることで、痛みの軽減につながると言われています。(参照:Cannabinoids and Pain: New Insights From Old Molecules

CBD単品としては、FDAがてんかん薬として承認し、アメリカではEpidiolex®という商品名で市販されています。THCは大麻の主な陶酔成分で、依存性があり、精神異常をきたす可能性があるため多くの国々で違法薬物として規制されていますが、CBDにはTHCに見られるような精神異常をきたす作用は弱いと言われています(参照:Wikipedia)。化学構造式を見る限り、すごく似た構造をしていて、これだけの違いでこんなに異なった作用を示すのかと思うと、人の体って本当に繊細で不思議ですね。

やっぱり危険?

日本では、薬物乱用の規制対象として、麻薬、覚醒剤などとともに厳しく規制されている大麻ですが、海外では、大麻はアルコールやタバコよりも社会的有害性が低いという意見もよく聞きます(元となった研究論文及びWikipedia)。とはいっても、どんな薬も諸刃の剣で、容量を超えて摂取してしまうと、毒になります。ちゃんと定められた用法を守って使いましょう。もちろん、それぞれの国の法律は守りましょう。

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